ジェンダーギャップはなぜ埋まらない?世代を超えた連帯によってわたしたちができること。

概要
今回の「HERDAYS Story」は、HERDAYSのパートナーであり、株式会社arca(アルカ)の代表・辻愛沙子さんが一年ぶりに登場。WiLLUMiNA(ウィルミナ)CEOの幸村潮菜とこの一年を振り返り、女性を取り巻く環境の変化や今後の課題について語り合いました。

日本のジェンダーギャップ指数が下落。原因はどこに?

――HERDAYS JOURNALの立ち上げから約一年が経ちました。その間、お二人が公私に渡る活動で感じたことをお聞かせください。一年やそこらで女性の課題が解決するものでもないとは思いますが、ジェンダーギャップ指数を見ると日本は後退しているのではないかという危機感が湧きます。

「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)の2023年の発表によると、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位で、過去最低ランクでしたね。G7の中でも東アジア太平洋地区の中でも最下位。前年度から比較しても9ランクもダウンして、かつては同水準だったお隣の韓国にもますます差をつけられるようになってしまいました。

幸村

特に政治のスコアは最下位クラスでしたね。昨年の内閣改造では過去最多の5人の女性閣僚に起用されたけど、蓋を開けてみれば、副大臣と政務官は「女性ゼロ」。スーツ姿の男性だけが並んだ写真がニュースで報じられたじゃない?グローバルとの差を感じたなぁ。

あの光景は衝撃的でした!適材適所と説明していましたけれど、その後何人も不祥事で退任していますからね。変われない、あるいは変わりたくない人々や業界の根深さを痛感しました。一方で、感覚としては変わってきている側面もあると思っています。例えば、2023年度の女性管理職の割合は12.7%と過去最高値でした。2019年に私が「Ladyknows(レディーノーズ)」という女性をエンパワーメントするプロジェクトを立ち上げたときは4%程度だったので、絶対値としてはまだまだ少ないですが、指数関数的に著しい伸びとは言えます。この一年だけで見ても、統一地方選挙で女性の当選者が過去最多になりました。地方議員や自治体の長になる女性は増えてきたという事実はあって…。

幸村

ファクトとしてはそう。女性活躍推進法が成立して以後、企業側のマインドも変わってきたり、日本国内だけに目を向けるとステップ・バイ・ステップで変化しているという感覚はある。ただ、引の目で見るとスピードが遅いんですよ。

そこなんです!変わっていないわけではない。ただ他の国々が強い意志を持って改革しようとしているのに対して、日本は少しずつ変化しているに過ぎないから追いつかない。特に、トップ層が変わろうとしないんですよね。女性比率をみても、地方議員は増えるけれど国会議員は増えない。社員は増えるけれど役員は増えない。だからドラスティックな変化が見込めないんだと思います。そんな状況下で立ち上がる女性が出てきても、受け入れる社会の空気が醸成されづらいですよね。特に上の世代の人たちの理解がまだ及んでいないのかなと感じます。

幸村

組織で意思決定をする人たちに、チャレンジする女性をエンパワーメントしたり支えたりというところが、まだまだ足りていないよね。

「個人の気持ち」として語られるジェンダー。

――ここまでくると、日本固有の根深い原因があるということになるんでしょうか。

日本特有の風潮として言うとすれば、ジェンダー平等への取り組みを「個人の気持ち」みたいに捉えられがちかなと思います。多様性や平等を「優しさ」と勘違いしている。「平等っていいよね」「多様な人に優しい社会の方がいいよね」とふんわりラッピングされがちじゃないですか?実際は制度や数の論理も相まって、個人の優しさで解決できる問題ではないのに。

幸村

社会や組織の仕組みの問題ですよね。本当は制度やルールも変えていかなきゃいけない。

まさにそうで、個人単位の“お気持ち”に任せているから、誰かを差別したり排除したいわけではなくても「現状維持が楽だよね」と流されてしまう。ジェンダーギャップ是正は相当な意志を持って行わないと実現できないのに。

幸村

日本もクオータ制を導入するとか、意志を持って仕組みから変える段階にきているかもしれないですね。女性管理職に一定数位以上の割合を求めるだけでなく、せめて候補者に女性を一定数以上入れるなど、やり方はいろいろある。

これまでの日本が偏りすぎたシーソーの状態だから、“お気持ち”程度では変わりようがないと思うんです。「平等がいいよね」という気持ちがあって、差別をしているわけではないから自分は中立だと思っている人がいたとします。でも、今の社会はジェンダーギャップが根強く存在している状態、つまり現状のシーソーはすでに偏っている状態なわけで、そのシーソーで真ん中に立つことは、結果、現状維持に加担してしまっていることなんですよね。意思を持って変えていこうとしなければ、偏ったシーソーがまっすぐになることはないと思います。

幸村

偏りが見えていないんだと思うの。知らないんですよ、本当に。私、ある団体で女性活躍について男性の幹部たちと議論する機会があったので、「日本のジェンダーギャップはこうですよ」「ポジションや賃金にこれだけ格差があるんですよ」とファクトとしてデータを見せたら、知らなかった…という反応だったの。でも、知ってからは「変えていかなきゃね」「継続的な啓蒙活動をしていこう!」となったんですよ、男性陣から。社会や組織を良くしていきたいという思いはある人たちなら共感してもらえるんだなと。

現状を伝えれば、理解してもらえるんですね。

幸村

そうなの。意思決定層が情報にアクセスできていない、知らないという状態もある。男女問わず共感してもらえる仲間を集めていけば、大きく変わる可能性はありますよ。

私は、教育の初期段階も見直していってほしいです!

幸村

子どもたちだよね、これからの。確かに、教える側の大人たちがまだまだ無自覚だから。

昨年の国際ガールズデーのタイミングで、HMM社さん、DE社さんと一緒に「Girls’FutureReport(ガールズフューチャーレポート)という調査結果を発表したのですが、その調査時に、気になる事象があったんです。子育て中の親御さんたちに、一般論として「子育てで重要視することは何ですか」と質問したところ、女の子と男の子の親御さんで回答が全然違っていて。男の子の親は「リーダーシップ」「経済力」につながる回答が目立ったのに対して、女の子の親は「愛情」「可愛らしさ」「家庭的であること」を重要視しているという結果が顕著に出たんですよ。

幸村

えーっ、そうなんだ。

でも、具体的に自分の子どもの性別で子育て方針を変えているかと問うと、「変えていない」という回答が多かったんです!

幸村

無意識にバイアスがかかっているんだね。

無自覚の偏見を持つ親世代によって偏見が再生産されてしまっていることに気づかされました。

幸村

学校や家庭内で気をつけていても、子どもは外からも持ち帰ってくるから。テレビを見たり、よその人から「女の子はこうだから」と言われたりすることでバイアスがかかっちゃう。でも、たぶん早いうちから外に目を向ければ感覚が変わるんですよね。うちの息子はインターナショナルスクールに通っているんだけど、例の男性ばかりの副大臣と政務官の写真を見せて「どう思う?」と聞いてみたんですよ。そうしたら、「肌の色がみんな一緒なのが不思議」と言ったの!おー、そうか、ジェンダーを超えてダイバーシティな視点は大事だよね、と私の方がかえって教わりましたよ。

「多様性を“認めよう”」という表現をよく見聞きしますけど、そもそも世界は元々多様なものであって、特定のマジョリティ側が認める・認めないという話ではないんですよね。その人たちからは見えていなかっただけで、すでにそこにあるものというか。むしろ、日本の同質性の方が実はすごく偏っているんだよ、ということに気づいてほしいです。9割近くが男性議員という今の国会の絵を、男女で入れ替えて見せたら、意志決定層の人たちにも違和感を感じてもらえるかな(笑)。女性ばかりの下着屋さんやプリクラ屋さんで一緒に来た男性が居心地悪く感じる、みたいなものと同じで、今のビジネスや政治の社会は女性にとってそういう状態になっているんですよという。

チャレンジする人を孤立させない。応援される社会に。

――日本国内でもわずかに変化は起こっている。組織や家庭内の教育によって視点が変わっていく可能性がある。そうだとしても現状のままでは、抜本的な改革には20年ぐらいかかってしまいそう。その間に、立ち上がった女性が孤立したり、努力が無駄に終わって疲弊するようでは悲しいです。

少し前は「ガラスの天井」と言われていましたけど、今は「ガラスの崖」と喩えられたりもしますよね。経営不振の組織ほどイメージ刷新のために女性がトップに置かれる傾向があり、大きなリスクを背負わされる。誰がやっても失敗する可能性が高い状況にも関わらず、「やっぱり女だからダメだった」とハシゴを外されて。

幸村

やっと初の女性経営者が、役員が誕生しました!といってもまだ1人だけです、というような状況ではね。まだまだマイノリティだもんね。

今、私の周囲の若い人たちはどこを目指せばいいのかわからなくなっているような気がします。先日、外務大臣の容姿や性別を揶揄する失言が取り沙汰された際に、私、ショックを受けたんですね。個々のお考えがあるのはわかるのですが、大臣には明確に抗議の姿勢を示してほしかった。限りなくトップに近い人たちの中であれを是とされてしまうと、次世代の女の子たちが同じような発言をされた時に意思表明ができなくなってしまう…。たとえ彼女自身がよかったとしても、女性が半分を占めるこの国のリーダーとして、ああいった言葉にはNOをはっきりと表明してほしかったと思います。

幸村

私のさらに上の世代ですよね。男女雇用機会均等法がようやく施行されたような時代に、今では考えられないような、さまざまな壁にぶつかりながら乗り越えてきた人たちだから、ちょっと揶揄されたぐらいでは痛くも痒くもない。というか、慣れてしまっているんじゃないかと。私自身にも思い当たるところはあって、わきまえてしまうというか、かわし方を覚えてしまっている。でも次世代に「私たちは酷いことをされてきたんだから、あなたたちも我慢しなさいよ」と言うのはちょっと違うよね。

ジェンダー問題という言葉で語られることがない時代でしたもんね。ただ、次世代にはそれを引き継がないという意思表示さえあったらな、と思いました。今すぐ全てを変えることはできなくても、現状維持やジェンダーバイアスにNOという姿勢をしっかり見せてもらえたら、きっと希望を感じて立ち上がれる若い世代も増えると思うんです。そういう女性リーダーがもっともっと増えてほしいなって。

幸村

そこの責任は、まさに私のような団塊ジュニアの世代にあると思っているのね。大臣のような道を切り開いてくれた先輩たちの事情もわかっているし、若者にも近いところにいるから、数の多い私の世代がどう振る舞うかがすごく大事。変化の勢いを止めないように前に推し進めながら、次世代にしっかりバトンを渡していきたい。

幸村さんにそう言っていただけると頼もしいです!立派な女性の先輩たちの背中が遠すぎると、私たち世代もそうだし、もっと下の10代子たちからしたら見えなくなってしまうので、こうして近い目線でカジュアルにお話しができると希望が持てます。

幸村

でもね、私の感覚だと、「よくわかっていない男性は多いけど、よくわかってくれる男性も多い」という感じですよ。差別やギャップに気づいていないだけで、知ってからは応援してくれる人もたくさんいるから。そこは性別関係ないんですよね。どうせ男性にはわからないと決めつけるのではなく、仲間を見つけていくことが大事かな。1人で戦わないで。

本当にその通りだと思います。私がメディアやSNSで発信する時は、「いま誰の言葉を代弁できているか」「誰の言葉を届けるべきか」というスタンスでいることが多くて。コメンテーターとして、オピニオンリーダーとして、とかそういう目線ではなく、辻愛沙子という一個人として、当たり前におかしいことはおかしいと声を上げる。そうすることで、傍観していたり違和感に蓋をしていた人たちが「あ、言ってもいいことなんだ」「自分の違和感はまちがっていなかったんだ」と気づいてくれたら、少しずつ声が増えて積み重なって社会の変化が促されるんじゃないかなって。たったひとりの天の声より、多くの人たちの声や世論の空気の力の方がきっと大きな変化を生むと信じているんです。私たちの手で変えていけるんだと思えることが何より大事だと思います。

幸村

それを、世代や性別を超えて連帯してやっていけるといいですよね。これからもHERDAYS JOURNALを通じて、一緒に情報発信をしていきましょう。

辻愛沙子(つじ・あさこ) 株式会社arca CEO、HERDAYSパートナー

「クリエイティブ・アクティビズム」を掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の2つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。
リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワーメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組 news zero にて水曜パートナーとしてレギュラー出演し、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。

撮影:土佐麻里子
取材、執筆:藤島由希

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