サッカーも、人生も。女の子たちが飛躍できる環境を作りあげることを目指して

概要

株式会社ウィルミナは2023年9月4日、北信越女子サッカーリーグに所属する松本山雅FCレディースと「レディースコンディショニングパートナー契約」を締結し、10月1日にU-15の選手、保護者、指導者向けに生理および対策の選択肢について学ぶレディースコンディショニングセミナーを実施しました。今回は、松本山雅FCレディース監督の小林陽介さんにお話を伺いました。

小林陽介さん
1983年生まれ、東京都出身。浦和レッズなどでプレーしたのち、2014年より松本山雅FCスクールコーチに就任。2019年より松本山雅FCレディースU-15で指導にあたる。

情熱を源に、常に自分と向き合い、自分を高めていく
プロの世界。


写真:松本山雅FC

――ご自身のご経験から、サッカー選手として長く活躍するために必要なのはどんなことだと思いますか?

一番はサッカーへの情熱。そこの情熱がなくなってしまうと練習も苦になってしまう。自分がどれだけサッカーが好きなのかというところが長くやる秘訣のひとつなんじゃないかなと思います。あとは自己管理。ケガがどうしてもつきまとうスポーツではあるので、中にはすごく能力があるのにケガで退いてしまう選手もたくさんいます。自己管理、いかに強い体を最初から持っているか、その時のいろんな環境や状況の要因はあるかなと思いますけど。

――ケガをしないためのトレーニングをするとした場合、プロの選手はそのような情報は自分で取りにいかないといけないのでしょうか。

所属しているチームにもよりますが、基本的には個人個人が情報を取りに行かないといけないですね。あとは、チームのトレーナーもいるのでそこから知識をもらうか。同じ選手が取り組んでいるものをまねしてみる、取り入れてみるとか、そういうことも必要になってくると思います。サッカーをするだけじゃなくて自分の体がどのような状態なのか、どのような体なのか理解しないといけないですね。

――チームには必ずトレーナーやチームドクターがいると思いますが、定期的にセミナーを開催したりアドバイスを発信してくれるものなのでしょうか。

プロの世界では、セミナーなどの学びの場は自分から取りに行かないといけないですね。若い選手たちには所属クラブのトレーナーやベテラン選手からの助言だったりがあるかもしれないですけど、ある程度の年齢を重ねている選手に関しては、どんどん自分でアンテナを張って情報をキャッチしにいった方がいいですね。

――プロになる前のジュニアユース、ユースはどうでしょうか。

これも所属しているクラブにもよりますが、栄養に関しての研修など行っているところはあります。選手だけじゃなくて保護者に対してもそうですし、あとは体のケアの仕方、ストレッチのやり方などは帯同しているトレーナーや監督、コーチから教えてもらえることもあります。

――プロになる前は得た指導内容を蓄積しておき、プロになったらさらに自分で情報を取りに行くことが必要なんですね。

ある意味プロサッカー選手は個人事業主なので、プロの世界で長く活躍したければいろんな知識を入れていかないといけないし、より高いレベルを求めていくとなると自分自身がどうしたいか、どうしないといけないか、常に自分と向き合って自分を高めていく。妥協は許されないのかなと思います。


写真:松本山雅FC

情熱を源に、
女性が活躍できる環境もみんなで作りはじめた松本山雅。

――2009年から松本山雅で2年間プレーをし、そのご縁で2014年から松本に拠点を移して現在はサッカーの指導・普及にあたっていらっしゃいます。

そうですね。サッカースクールのコーチとして帰ってきて、その後はフロントの仕事もしました。再び指導現場に関わりだしたのは2019年にレディースU-15のコーチとして、中学生年代のチームが立ち上がった時です。そこから4年間、U-15のチームしかなかったのですが、今年の3月にレディースの社会人チームが、トップチームという位置づけで、新たに立ち上がりました。

――2019年当時はU-15の選手で、現在はレディースのトップという選手もいらっしゃいますか?

今は3名います。目的としてはU-15が立ち上がった時もそうですけど、プレー環境がなく、サッカーを続ける選択肢がなくなってしまうというところに、当クラブが寄与していく。今年レディースの社会人チームが立ち上がったのも、OGの子たちが高校卒業後、地元の大学に進学した際に、サッカーを続けられる選択肢が少ないという事情がありました。彼女たちが長くサッカーに関わり、プレーを続けられる環境をつくっていきたいという思いが原動力になっています。

――活躍できる環境をつくるという発想もそうですが、実現させてしまうところが本当に素晴らしいですね。

練習場が中学生と一緒だったり、練習の回数も平日2回と土日しかないという環境ではあるのですが、それらすべての旗を振ってくれているのが、もともとは山雅の今の男子のトップチームを立ち上げ、ここまで築き上げてきてくれた方々なんですよね。

――男性ですよね。

はい。ご自分の娘さんもサッカーをしていたということもあり、女子も男子と一緒で、サッカーで地域を盛り上げていけないか、女子サッカーでも地域貢献できないか、そのためにしっかりやっていこう、と考えていただいています。そういうみなさんのゼロからイチをつくるパワーと経験は本当にすごいと思いますし、感謝しかありません。

――共感してもらい、仲間を増やしていき、大きな力にしてみんなで進めていくような感じですね、すごい。そういうのがママサポ企画のようなものになってどんどん生まれていくのでしょうか。

女性社員が企画をして、女性に対する活躍の場をつくり、女性に社会でどんどん活躍していってほしいという思いが形になっています。レディースが立ち上がっているという状況もあり、ママサポの企画だったり、クラブだけではなく「女性が」という大きな枠で、アンテナ高く考えて動いています

――そういった松本山雅さんの価値観や情熱は、監督が2009年に選手として活躍されていたときも感じる部分はありましたか?

そうですね、僕なんかは本当にクラブや地域に対して恩返しをする気持ちしかなくて。応援してくれた地域の方々や、サポーターの人たち、僕らを一緒になって応援してくれる人たちの情熱だったり、思いみたいなものは、常に僕も一緒に持っているつもりで、そういう人たちのために僕はこのクラブで働いているのかなと思います。生まれは全然違うんですけど(笑)。


写真:松本山雅FC

後に続く若者のために、道を切り開くことに価値がある。

――レディースチームはどのように人数を集める仕組みになっているのでしょうか?

今はセレクションという形をとっています。U-15に関しては入団希望者を募集して、セレクションを経て獲得していくという状況ですね。

――ゆくゆくはトップチームで継続してプレーをし、北信越女子サッカーリーグで強いチームとして存在することを狙ってセレクトされてるのでしょうか。

そうですね。今は少しでもレベルの高い環境でサッカーがしたいという思いで集まってくれているのかなと思います。中学生チームとトップチームの間のユース、高校生チームが本来あるべき形ではありますが。そうするとエスカレーター式に中学校、高校を出て、最終的にはトップチームにあがってプレーすることができます。でも、今は練習環境や場所がなかったり、それぞれのカテゴリーと年代で監督がいて、指導者がいなきゃいけない。クラブとしてハード面、ソフト面でもまだまだ課題はたくさんあって、そういうものが用意できればいいですけど、まだそういう状況ではない。

――いずれはですよね。

そういう未来図は描きながら、いずれは。北信越リーグでもしっかり戦えるチームをつくっていきたいですし、応援していただける人が増えてくれば、その先のなでしこリーグなのかWEリーグなのか、今すぐではないですけど道も開けてくるのかなと。今トップチームで選手としてやっている子たちとは、チームを一から作りあげている段階なので一緒になって作っていこう、という話をしていて。彼女たちが現役の時になでしこリーグやWEリーグにいけるかというと、約束はできない。でも僕らもそうでしたけど、クラブの礎として上を目指してより良くなっていく、歴史をつくっていく中の大切な部分だと思うので。

――後に続く者のために、という感じですよね。

そうですね。後輩たちもそうですし、今の中学生やその前の小学生とか、いずれ山雅に入ってきた時にそういう道が整っていれば、今やってきていることはとても価値のあることなんじゃないかなと思います。

――そのような価値観を持って意識してプレーをする、コーチ業や監督業をする、というのは大事なことですよね、当たり前のように思ってしまいがちですけれど。HERDAYSについても、例えば生理の痛みは我慢して当たり前、のように脈々と受け継がれてきていますけど、実際はそうじゃないんだよ、ということを後に続く若い人たちにちゃんと教えていきたいね、という思いがあってサービスがあるので、通じるものがあるなと思いながらお話を伺っていました。

はい。とても共感します。

――レディースを監督するにあたって、やりがいに感じることはどんなところでしょうか。

やはりサッカーが好きな女の子たちが一生懸命やっている姿が一番。さらに将来の夢とか目標を見つける子もいたりする、人としての部分でサッカー以外のところも成長する姿を感じられる、そういうところにやりがいを感じます。これから発展する松本山雅レディースに関わっていけるというところも、もちろんありますし。本当に選手たちが常に一生懸命というか、楽しそうにやっている姿を見守るところもすごくいいですね。

未来についての悩みや不安を抱えていて、自信がないという選手も少なくありません。彼女たちと向き合っていく中で、意識が変化したりやりがいを感じて、少しでも選手が変わるきっかけになりたいし、導くことができたらいいなと思っています。そういった「未来の部分」で選手のためになれた時にやりがいを感じますね。

――成長の過程に関わっているというところでしょうか。やはりご自身の経験からアドバイスをあげたりもされますか?

もちろん自分が選手として経験したことの中から判断することもありますが、できる限り今その子が考えていることに対して、あまり自分の経験則だけで話はしたくないなと思っています。こうあるべきだよ、というのは僕自身だけの価値観であって、彼女たちにとっては違う価値観が間違いなくある。ある程度は経験の中からも考えつつ、それを第一に伝えないようにしています。

――難しいですけどそこは大事なところですよね。HERDAYSで女性アスリートの月経対策の第一人者とよばれている先生にお話を伺った際に先生は「女性アスリートの月経課題というとコーチが男性だから理解してくれないとか思いがちだけど、実は女性のコーチとか監督が意外とネックになることもある。なぜなら自分たちが現役の時はこうだったから大丈夫だったとか、生理はあったけど乗り越えたからあなたもできるでしょ、とか経験則に基づいたことで指導してしまいがちで、それによりいつまでも我慢するということが脈々と受け継がれてしまう」というようなことをおっしゃっていました。監督が今おっしゃっていた、それはあくまでも自分の経験値・価値観であって押し付けないようにするという考えは、本当に素晴らしいと思います。


写真:松本山雅FC

これからの人生、
様々な場面で選択肢を持てるようになるため必要なこと。

――10月1日のレディースコンディショニングセミナーを監督も一緒に受けられて、いかがでしたでしょうか。生理痛の疑似体験もしていただきましたが。

本当にあの時は、大げさにしたわけでもなく、痛みに関して初めて理解できたかなと思っています。痛みだけではなく気持ちの変化があったり、気持ちはあるけど身体がいうことをきかなかったり。それでもプレーを続けなければいけない選手たちに対して、男性にはない体の感覚を気にしないといけないという理解が僕の中でも深まったし、より選手に寄り添ってあげないといけないな、環境に対してもっと配慮しないといけないんだなと感じ、学ぶことができました。

――監督に就任された際、まわりの方々から女子は男子と違って生理による課題はあるからね、とか、生理痛があるから大変なところはあるかもしれないけど、などインプットはありましたか。

正直深い知識はなかったですね。一般的な知識として、女性には生理があるということ、生理痛によってコンディションの波はあるだろうなというのは当時監督をしていた人と話したりはしていました。

――目にみえてパフォーマンスが悪くなる選手はいましたか。

いましたね。火曜日はすごく調子よさそうだけど、週末になると表情が暗かったり、テンションが低かったり、動きが鈍かったりと感じることはありました。

――セミナー後、選手が自分の体調についてオープンに話をしている感じありますか?1回ではなかなか難しいでしょうか。

まだ把握できてないですけど、どうだろうなあ、でも間違いなくひとつのきっかけにはなったと思います。保護者からもすごくよかったという話もいただいたりしています。ただ、より僕らもアンテナを張って環境を整えていかないといけないんだろうなと思っています。

――最後に2つ質問をさせてください。1つはU-15の今後の目標、もう1つはスポーツの世界では女子スポーツでも指導者は男性という場合が多いと思いますが、選手がこれからの人生いろんな場面で選択肢を持てるようになるためにはどんなことが必要だと思いますか。

いろいろな選択肢を持つためには、今のうちからそれこそ勉強もそうですけど、バイタリティや、どんなところにいってもリーダ―シップを取れるような人間性の部分での成長を目指すことですね。自分をオープンに出せなかったり、コミュニケーションが苦手というまま進んでしまうと、その先のサッカー以外の部分で社会に出た時に選択肢が狭まってしまいます。ポジティブな思考や人間性をもっともっと磨く必要があるのかな。高校や大学に行ってからでも成長はできるけど、山雅のレディースに関わっている中学3年間に、サッカーだけじゃない部分を僕らがあわせて伝えていく必要があると思っています。

――山雅で過ごしていると周りの方々のバイタリティとか、最初のお話に戻りますが、後から続く者のために今これをやるのだ、という価値観に常に触れているので、中学3年間でいろんなものを吸収できるのかなと感じます。今後のレディースの目標についてはいかがでしょうか。

チームとしての大きな目標は持ってはいますけど、1番は女の子たちが飛躍できる環境をこれからも整えていきたいというのがあります。もちろんプレーする環境もそうですけど、ウィルミナさんのようなコンディショニングパートナーとして歩んでくれる人たちも増やしていきたいし、環境面をもっともっと整えていくのは、僕らだけじゃなくて、山雅の社員の女性たちも含めて一緒にやっていきたい。あとはOGの子たちがいずれ地元に帰ってきた時にクラブで活躍できたり、地域社会に出ても活躍できるように、人としての部分のところを育てていけるようにやっていきたいと思っています。

――素晴らしいですね。いいお話をありがとうございます。

昔どこで過ごしたの?と聞かれた時に、山雅のレディースにいましたって胸を張って言ってもらえたらすごくうれしいですね。

松本山雅FC レディースについて
2019年、中学生年代を対象とした「松本山雅FCレディースU-15」を設立。地元の大学生や社会人にもさらなる多様な選択肢の提供による長野県女子サッカー文化の醸成を行うため、2023年3月、松本山雅FCレディースU-15から松本山雅FCレディースへと活動の幅を広げ、「北信越女子サッカーリーグ北信越2023」への参戦を実現。地域の女性が親しめるスポーツの象徴として、サッカーを地域の女性にとってより身近なスポーツへ、そして女子サッカーを通して、クラブがより地元に根差し、地域と共に発展していけるよう活動しています。https://www.yamaga-fc.com/

取材、執筆 : 佐藤明子(HERDAYS編集部)

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