長年にわたりテレビやラジオで活躍し、多くの人の心を魅了してきた近藤サトさん。近年、白髪を染めない「グレイヘア」でメディアに登場し、その美しさと潔さに、多くの視線が集まりました。今回はそんな近藤さんに、グレイヘアに至るまでの心の変化、年齢との向き合い方についてじっくり伺いました。

近藤サトさん
フリーアナウンサー。1991年にフジテレビに入社し、報道番組や情報番組、バラエティ番組で活躍。
退職後はフリーとして、深みのある声と落ち着いた語り口を活かし、ナレーションを中心に幅広く活動する。

 

髪を染め続ける自分に違和感を抱くように。

Instagramより(@sato_greyhair

――近藤さんは、いわゆる「グレイヘア」にガラリと変えた第一人者というイメージがあります。

私は、30代にはもう白髪が目立ちはじめて、そこからずっと染めていました。当時はフジテレビに限らず、女性アナウンサーは見た目が麗しいイメージ。私もアイドルに憧れるようにアナウンサーを目指して入社したので、自分の中に「若々しく美しくしておかなければ」という意識が強くあったんですね。会社から白髪染めを求められたわけではなく、私自身が「そうするのが当たり前」と思い込んでいたんです。だからといって性的搾取や差別などとは思っていなかったですし、先輩アナウンサーたちも素敵な人ばかりで、イキイキと輝いていました。

――時代背景もそうでしたね。そこから、白髪を染めるのをやめようと思い至ったのはいつ頃のことだったのでしょうか。

40代前半ですね。定期的に白髪染めをしながらも、徐々に「いつかはやめたい」という思いが募っていきました。ちょうど「美魔女」という言葉が流行りはじめた頃、自分がそちらの方向に進むイメージがまったく湧かなくて。アレルギー体質だから、白髪染めの薬剤による皮膚トラブルも悩みの種。そこで、当時通っていた美容院で、白髪を染めないという選択はありかと相談してみたものの、「絶対にやめた方がいい」と止められてしまいました。

――そういった反対の声を押し切ってもグレイヘアの道へと進んだきっかけは?

東日本大震災でした。緊急避難用の荷物に市販の毛染めを入れようとして、強い疑問を抱いたんです。これは本当に自分にとって必要なこと?止めるならこのタイミングだ…。ここで踏み切らないと、私は一生人の目を気にして生きていくことになる、と。そのとき、長らく自分の中で溜まりに溜まっていた感情が一気に噴き出しました。

一応、事務所に報告したところ、「白髪を隠さないようになると顔出しの仕事がなくなる可能性もある」と助言されました。今まで求められていたものがなくなるということは、ゼロベースになるんだ。 まあ、それでもいいや!とかえって原動力になりましたね。

――「こうであらねば」というバイアスから解き放たれる瞬間!

ほどなく別の美容院に通うようになり、新しい美容師さんはあっさりと賛成してくれたんです。ただ、一気にグレイヘアにはならないので、少しずつなじませながら伸ばしていきましょう、と提案もしてくれました。テレビに出る仕事のときは一時的にヘアマニキュアで隠して移行期間をしのぎ、白髪のまま完全に伸び切ったら、そこからはもう隠さずに。

 

「髪を染めない私」を周囲はどう受け止めている?

Instagramより(@sato_greyhair

――フジテレビ時代から世間が見慣れていた近藤さんがグレイヘアになったことは、大きな話題になりました。近藤さんのもとへも反響は届きましたか?

周りは明らかに困惑していました。「染めている近藤さんの方が好き」と率直に言ってくださる人もいましたし、「いいと思う」と褒めてくれる人もいて、どちらの意見も私にとっては嬉しいものでした。ただ、そうやって直に髪について触れてくる人は意外に少なかったですね。

多くの人にとって、高齢者でなければ白髪は当然染めるもの。それなのになぜ染めないのだろう?と真面目な人ほど憤ったり困惑したりしてしまい、かける言葉を失ってしまうのかもしれません。その結果、様子見。当人としては「やっぱり見た目は大きな判断材料なんだな」と面白がっていましたけど(笑)。

――異質なものは見て見ぬふり…日本人らしいリアクションかもしれません。

女性誌のみなさんはさすが敏感で、すぐ取材にきてくださったのですが、その中には「女性性を捨てたことについて聞かせてほしい」という質問があり、なるほど…と思わされました。捨てたつもりはなかったので(笑)。白髪であるというだけで、電車でご高齢の方から席を譲られそうになったこともありましたよ!性別や年齢に対する偏見は、社会によって形成されるものなのだということがよくわかりました。

世間の意見として「劣化した」というネガティブなコメントがあったのは想定内。老いは人間が根源的に恐れるものであり、白髪はその象徴ですから、不快に感じる人がいるのも当然だと思います。ただ、ほどなくポジティブなムードに変わったように感じました。テレビの顔出しの仕事もなくならなかったですし、徐々に「グレイヘア」というワードも好意的に受け入れられるようになっていきました。

 

誰にも憧れず、自分の心に従う。

Instagramより(@sato_greyhair

――近藤さんの影響もあり、コロナ禍の自粛期間に白髪を染めない選択する女性も増えましたね。近藤さんご自身の中ではどんな変化がありましたか?

はじめは自分自身が視覚的に慣れていないので、ショーウィンドウに映る白髪の人が自分だと気づいてショックを受けたり、朝鏡を見て驚いたりする「慣らし期」が必要でした。今となっては笑い話ですけど(笑)。

未来のことは誰にもわかりません。目の前にあるのは選択肢だけ。誰しもがベストな状態の自分として輝きたいと思って道を選びますよね。その1つが、私にとっては白髪を染めないことでした。 もし今日の私が幸福を感じているのだとしたら、それは過去に選択をしたから。「あのとき白髪にすると決めた自分は本当に偉いぞ!」と褒めたい気持ちです。

――思い込みや世間体から離れて、自分のためにした選択がグレイヘアだったのですね。

そうです。グレイヘアは個別の問題にすぎず、髪色の変化に一喜一憂するところからはもう降りよう、と私が思っただけ。だから「自分は白髪が似合わないから染めます」というのだってもちろん正解。その選択を、自分のやりたいことや想いを尊重して行っているかどうかですよね。

――髪の色ひとつでこんなに議論が尽きないというのもおもしろいですね!近藤さんのお話を伺いながら、いかに私たちが無意識のバイアスに支配されているかがよくわかってきました。ヘアスタイルにせよファッションにせよ、自分の意思でそうしているのか、世間の目を気にして選んでいるのか…。

40代、50代を過ぎた女性は、もうひとくくりにはできません。 私たちはバブルの頃が青春時代でしたから、当時はみんなが同じカバン持って、みんな同じ服を着て、同じ髪型をしていましたよね。 でも、50年近くも生きてきたら、誰も同じカバンなど持っていないし、同じ服も着られません。私たち、もう個人として確立されているんですよ。

だから、みなさんには、今まで生きてきたことに自信を持って欲しい。あなたの好きなように生きる道を尊重していけば間違いない。もう誰かに憧れるのはやめてもいいんです。それぞれが、誰とも比べられないぐらい濃密な人生を送ってきたのですから。

――髪色は選択の1つ。大人の女性の美しさは、自分の気持ちに素直に従うことで滲み出てくるものなのかもしれません。近藤さん、貴重なお話をありがとうございました!