11月19日は「国際男性デー」。男性の心身の健康について考え、ジェンダー平等を促す日として制定されました。性の不平等を考える上で、女性の置かれている状況と同じく、男性の悩みや「生きづらさ」にも目を向けていかねばなりません。今回はタレントのユージさんに、ご自身の子育て経験も交えながら語っていただきました。

ユージさん
タレント、モデル。
アメリカ・マイアミに生まれ、5歳から日本で育つ。
2016年にベスト・ファーザー賞、イクメン オブ ザ イヤーを受賞。
テレビ番組で活躍しながら、4児の父として子育てに奮闘する。
オフィシャルサイト:https://www.lespros.co.jp/artists/yuji/
Instagram:https://www.instagram.com/yujigordon/
「男だから頑張らなくては」という空気は、今もどこかにある。
――ユージさんは、アメリカに生まれ、日本で育ち、さまざまな角度から世の中を見る立場にいらっしゃいますが、男性についての偏見や思い込みがあると感じたことはありますか?
偏見については、男女どちら側からでも思いつくことがたくさんあります。
男性の立場からすると、「男なんだからこれぐらいやって当然」と期待されることは昔からありました。僕が子どもの頃は、転んでも「男の子がそんなことで泣いちゃダメ」と言われて育つような時代でしたから。その点は日本もアメリカもあまり変わらないと思います。
世代的なものもあってか、38歳の僕でも、「男女はすべて平等に」という発想にはまだ少し違和感を抱く部分もあるんです。男性が外で働き、女性が家庭を守る。それが当たり前という時代が長く続いてきた歴史もあるし、男女には生まれ持った身体的な特徴の違いもありますし。
――「男だから頑張らなくては」という空気がプレッシャーになり、生きづらさを感じることはありますか?
僕自身、実はそのプレッシャーは嫌いじゃない。重い荷物なんか喜んで持ちますよ!うちは大家族で、旅行ともなるとスーツケースがものすごい量なんですが、僕以外は誰も運ぼうとしない(笑)。だから一人で汗だくになって車に積んで、何時間もかけて運転もして。
ただ、それは、僕の得意分野だから積極的にやっているだけ。他の男性に強要することではないし、不得意なことを無理にやる必要もない、個別に話し合うことです。例えば夫婦間の役割分担なら、話し合ってお互いが納得していればそれでいいでしょう。
――ジェンダーにとらわれない、とても本質的な考え方ですね!
「理想の父親」とは?手探りで始めた子育て。

Instagramより(@yujigordon)
――ユージさんは27歳という若さでお父さんになり、29歳のときには当時最年少で「ベスト・ファーザー賞」と「イクメン オブ ザ イヤー」を受賞されました。子育てとはどのように向き合ってこられたのでしょうか。
僕の両親は早くに離婚していて、母と幼い僕は日本に来て、父はアメリカに残りました。つまり父親という存在がいない環境で育ったので、僕は「理想の父親像」というものを持っていませんでした。でも、それが結果的によかったと思っています。
父親としてやることすべてが初体験。つまり先入観にとらわれずに、「いいお父さんはこんなときにどうするんだろう」と、そのつど選択の連続なんです。過去に例を見たことがないので、「ここでは右か?いや、左の選択肢もある?」と毎回が試行錯誤です。 子どもにとっていい親でありたい、という思いがあるだけ。
――ロールモデルがいなかった分、ユージさんらしい子育てをスタートさせて、ご自身の経験の積み重ねでここまでこられたんですね。
いまでは4児の父です(笑)。人間の行動パターンは、自分が見て育った環境に似てしまうといわれたりもしますが、もし僕が亭主関白な父親のもとで育っていたら、こうはならなかったかもしれません。母1人子1人の家庭で育ったので、家のことを手伝うのは当たり前でした。そのおかげで、結婚後に、子育てや家事に関与しないという発想がなかったのだと思います。
――仕事と子育て、どのようにバランスを図ってきたのでしょうか。
僕は、日中は仕事でほぼ留守にしているので、削れるのは夜の睡眠時間だけです。赤ちゃんの頃って夜中に何度も起きたりするじゃないですか。そこで妻とバトンタッチ。年子の娘たちがまだ赤ちゃんのときは大変でした。2人を同時に抱っこして、ミルクをあげて…と試行錯誤でやっていました。ところが、仕事で朝早い日も多いので、あるとき僕がパンクしてしまったんです。見かねた義理の父母が手伝いにきてくれるようになり、僕も睡眠だけは確保するようにして乗り切ってきました。
一番上の子はもう20歳を超えています。真ん中が11歳と10歳、一番下の子は4番目ともなると、僕ら夫婦も子育てに慣れてきて、ようやく少し楽できるようになってきました。

Instagramより(@yujigordon)
――ユージさんは、テレビで見ない日はないぐらいの活躍ぶりですが、私生活ではお子さんたちと懸命に向き合ってこられたんですね。そういえばInstagramもお子さんとの写真でいっぱいです!
子どもが4人になったので、それぞれの得意・不得意を話し合った上で、最終的には僕が外で仕事、妻は専業主婦という形に落ち着きました。ただ、これはうちの場合の話であり、どっちが外で働いても家に入っても、夫婦ごとに理にかなった形でいいと思います。
――男性の育児参画で問題になるのが、仕事とのバランスの難しさだと言われています。男性の育休取得率は40.5%と上昇してきましたが、それでも女性の取得率には及びません。日本の社会構造が、原因になっているのかも?
企業が育休を取得できるように制度を整えても、育休を取得した方の肩身が狭かったり、出世コースから外れたりするという話がいまだに聞こえてくる。止まらない物価高に賃金上昇は追いついていませんから、共働きをする必要があっても、現実を見ると、お父さんが仕事に稼働する分、お母さんが育児の主体者となって…という形を取っているご家庭が多そうですよね。育休を取得する社員を「どうぞどうぞ」と送り出せる風潮や、残った社員もゆとりを持って働けて賞与が得られるような仕組みがないと厳しいですよ。「育児休業」という言い方そのものをやめようという声も挙がっていますから、子どもがいるいないに関わらず社員全員が取得できる長期休暇の制度を作る、などが必要になるんでしょうかね。
――男女格差が埋まらない現実が続きますね。せめて賃金が上がる、国や会社からの手厚い保証があるなどして、ベビーシッターや家事代行サービスが気兼ねなく利用できるようになると、少しは状況がマシになるかもしれませんが…。
それです!キャリアを積みたい女性も働きやすくなる。男性の家事や育児参画は厳しい、女性も働きづらいというままでは、少子化だって歯止めが効きませんよ。僕ね、心配なんです。いまどきの若い子たちは賢すぎるし、入ってくる情報も多いから、「メリットがないなら結婚も子どももいいや」とあきらめることも多いんじゃないかな?時間やお金を計算しちゃって。僕なんか子どもができるたびにパニックでしたよ。4回目でも(笑)。
カッコつけず、「できない自分」を正直に認める。
――さまざまなことを乗り越えてここまでこられたユージさんが、これからライフステージの変化を迎える若い世代の男性たちにエールを送るとしたら、どんな言葉をかけますか?
子どもの個性はみんな違うので難しいところですが、ただひとつ言えるのは、「頑張りすぎない」こと。結婚したり親になったりして急に無理すると、後でボロが出たり嫌気が差したりしかねません。そして、育児や家事ができないのにカッコつけて「できる」と言わないことも大切です。情けないけど、「俺、本当にダメだな」とできないことを正直に認めて、ハードルを下げておくと、できたときに評価されます(笑)。
僕は一度に複数のことをするのが苦手だったけど、例えば「ゴミ捨てだけ」「風呂掃除だけ」と一つの作業を完璧にこなすことから始めていったら、トイレ掃除、食器洗い、洗濯物たたみ、と徐々にできることが増えていきましたよ。
――「らしさ」にとらわれず、自己受容してみることが第一歩なのかもしれませんね。ユージさん、貴重なお話をありがとうございました!