トライアスリートの孫崎虹奈さんに、産後半年でトライアスロンの大会に復帰した経験をもとにお話を伺います。ウィルミナが応援する女性トライアスリートのコミュニティ「TRI WOMAN JAPAN(トライウーマンジャパン)」の運営に携わる孫崎さんは、2025年4月にもJournalに登場してくださいました。その後、出産を経てどのような心境、体調の変化があったのでしょうか。

孫崎虹奈さん
小学生からトライアスロンを始め、ジュニアレースに出場。大学時代には日本選手権にも出場する。その後、アイアンマン世界選手権(KONA)出場を目指す「KONA チャレンジ」のサポートスタッフ兼任メンバーとして活動。2019 年「アイアンマン台湾」で女子総合優勝、2023年10月「KONA」に初出場・完走を果たす。現在はフリーのコーチなど多方面で活躍中。
産前・産後で変わった、自分の体との向き合い方。
――前回、Journalにご登場いただいてからちょうど1年。その間にご出産されたとのことで、おめでとうございます!しかも、産後まもなくトライアスロンの大会に見事復帰されましたね。
ありがとうございます。2025年10月1日に無事生まれました。出産日のちょうど200日後にトライアスロン宮古島大会があり、エントリーが始まったタイミングだったので、頑張ってみようかなと思い、申し込みました。
――妊娠中は、何かトレーニングを行っていらっしゃったのでしょうか。
第一子ということもあってどこまでやっていいのかわからず、何かあったら自分の責任になるという怖さは正直ありました。そのため妊娠前ほどガッツリとはできないものの、ウォーキングは欠かさず行っていましたし、自転車はインドアで乗っていました。少しは泳ぎたくて市民プールに行ってみたりもしたのですが、お腹が大きくなると、周りの目が厳しく感じられ、最終的には散歩に落ち着きました。
――欧米では妊娠中の女性もアクティブに運動しているイメージがありますが、日本だとまだ目立ってしまうかもしれないですね。出産後はどれくらいでトレーニングを再開したのですか?
私は緊急の帝王切開で産んだため、お腹を切ることがスポーツにどう影響するのかがわからず心配だったので、1ヶ月は何もせず安静に過ごしました。産んだ直後は「1ヶ月しっかり休んだら、まず筋トレをバンバンやるぞ」と意気込んでいたんですけど、実際にはそんな気力は湧かず、寝かしつけながら一緒に寝落ちてしまうのはしょっちゅう(笑)。まずはゆっくり散歩することから徐々に始めていきました。

――孫崎さんほどパワフルな方でもそうなのだと聞くと安心します(笑)。トライアスリートでいらっしゃると、おそらく一般の方より体の変化に敏感に気づくのではないかと思いますが、出産前後ではどういった点が主に変わりましたか?
自分では変わっていないつもりで動いてみると、以前と力の入り方が変わったのか、腰が痛くなったりしました。妊娠中にお腹が大きくなると骨盤が徐々に開いていくのですが、そうすると、骨盤まわりの筋肉が弱ってしまうんですね。そのひとつが腸腰筋です。
――腸腰筋は、お腹のあたりから下半身へと繋がっている筋肉ですね。
そうです。腸腰筋が伸びると、体を動かすときにうまく力が入れられません。自転車やランニングのような足を上げる動作では、この腸腰筋をよく使うんです。また、筋肉の衰え以上に大きく影響したのが、ストレッチで体をケアする時間が取れないということでした。そうすると、どこかを痛めて怪我しやすくなったりします。
――勉強になります。産後のママさんたちにとって時間の確保がもっとも難しいとは思いますが、ストレッチも意識してみてほしいですね。
30分のウォーキングが子育て中のリフレッシュタイムに。
――トライアスロン宮古島大会では完走されたそうですね。実際に復帰してみていかがでしたか?
10時間かかりましたが、当日は天気も味方してくれて、楽しく挑めました。妊娠、出産を経験して大会に出場するのは初めてのことだったので、準備が足りているかもよくわからず、目標はただ無事に完走すること。以前の70%程度の力で無理をしない、無理だったらすぐに止めるつもりで。大会に出たいというのは、言ってしまえば私のわがままですし。
――そうですか?
子どもを夫に託して自分の好きなことをするというのは、やはり少し罪悪感がありました。家族も含めて周囲の人たちはすごく応援してくれましたけど、その一方で離れていく人もいたのは事実。「まだ早いんじゃないの?」という声を結構いただきました。もちろん、私の体を心配して言ってくれたことなんです。それも、出産を経験した女性ほど親身になって言ってくださって。

――なるほど…産後の女性に厳しい風潮がまだあるかもしれませんね。そうすると本人も周りも、「後悔したくないし、させたくない」と慎重な行動を求める。一方で、妊娠中や産後もある程度は動いた方が体にいいという説もあったりで、ママさんたちにとっては判断が難しいですね。スポーツのプロとして、何かアドバイスはありますか?
体質にもコンディションにも個体差があるので、「大丈夫」とは断言できません。お医者さまによっても明言は避けますし、絶対的な答えはない。だからいっそうモヤモヤしますよね。
私は、運動そのものというより、自分の時間を持つことの意義の方が大きかったように感じています。3ヶ月ぐらいまでの赤ちゃんは3時間おきに起きてミルクを飲むのですが、夜中に何度も起きるから、私自身も覚醒状態になっていたんですね。夫が交代してくれて「30分でも休みなよ」と言ってくれても、頭が冴えているので簡単には眠れません。そんなとき、外に出て少し散歩をしてみたら、気持ちまでスッキリしました。

――短時間でも外の空気を吸うとリフレッシュできそうですね。
それから、夫の在宅時や出勤前の朝などに、30分、1時間とタイミングを見つけて走りにいくようになりました。じっとしているとトレーニングしないと!と不安に襲われたり、あれこれと考えて逆にゆっくりできないのですが、トレーニングがリセットのいい時間になりました。
お散歩や運動を行うことのメリットは、先ほどの腸腰筋もそうですし、出産でゆるんだ骨盤底筋を引き締めることにも繋がります。子宮や膀胱を支えている骨盤底筋がゆるむと、トイレが近くなったり、安定感が失われてボディバランスを崩したり、歩行に影響が出たりします。
――孫崎さんは、次の大会出場をすでに計画しているのですか?
自分のコンディションと家族とのバランスをみながら、スプリントという短い種目などを楽しんだりしていこうと思っています。
私はもともとポジティブな人間だったのですが、産後にイライラしたり悩んだりすることもありました。でも、運動して汗をかくとそんなことがどうでもよくなるんです。産後にトライアスロンという目標があったからイライラやモヤモヤも自然と解消できました
――妊娠、出産は、女性のライフステージでは大きな変化です。子育てもやりがいがありますが、自分のための目標やリフレッシュ方法を持っておくといいのかもしれませんね。孫崎さん、今回もお話をお聞かせくださってありがとうございました。