ポツポツと現れる白髪に一喜一憂…。年齢を重ねてからの美容はモチベーション維持が難しいものです。今回は、ヘアのプロである美容エディターの伊熊奈美さんに、大人世代のヘアケアについてご取材。また、ご自身の女性としてのキャリア形成や人生を豊かなものにする方法についてもお話しいただきました。 伊熊 奈美(いくま なみ)さん
美容エディター・ジャーナリスト、毛髪診断士指導講師。女性誌の編集・執筆に25年以上携わる。特にヘア分野を中心に、生活者視点の美容メソッドを提案。雑誌、TV、新聞、Web等各メディアの執筆・監修のほか、イベント、講演等にも出演する。著書に『いい白髪ケア、やばい白髪ケア』(小学館)、『脱白髪染めのはじめかた〜でもいきなりグレイヘアは無理!』(グラフィック社)がある。
Instagram:https://www.instagram.com/namiikuma_hairista/

 

自分の得意を見つけて、集中。
「絶対無理」から奮起一転、ヘアのプロフェッショナルに。

――長らく女性誌を中心に活躍してこられた伊能さんに、女性のキャリアについて伺いたいと思います。直近の大きな話題といえば、初めて日本に女性総理が誕生したこと。伊熊さんは、率直にどんな感想を持たれましたか?

「ボーダーを超える」が私のライフテーマです。彼女はこれまで強い保守的な発言が強調されるなどお堅いイメージが先行していたけれど、まさに「ボーダーを超えたな」と思いました。集団になったときにそこに女性がいて、円滑になったりすることがありますよね。外交の場面を見ていると、硬軟をたくみに操る女性ならではの柔軟性みたいなものが出ているように見えます。

――ボーダーというのは、自分自身のボーダーでしょうか、それとも業界や前例のないことをイメージされていますか?

自分のボーターを超える、もちろんそれもあるけど、私はそんなにストイックなタイプじゃないんです(笑)。日本は縦割り社会だから、その構造から一歩外へ出てみると、自分の価値やものの見方が変わるという発想です。

私は新卒で地元のタウン誌の編集記者になり、その後東京で女性誌の編集をやりたいと思って上京し、20代後半で『Caz(キャズ)』(扶桑社)の編集者になりました。そこでもともと好きだった美容記事を担当をしていたのですが、その頃美容雑誌の『VOCE』(講談社)が創刊されて魅了されました。海外のメイク雑誌のようなビジュアルや、美容にまつわる知性と洞察が光るコラムに衝撃を受けて「こういう雑誌を作る美容ライターになりたい!」と思いました。

その後フリーランスになってすぐ、創刊されてまもない『美的』(小学館)にご縁があり、20代後半からはどっぷり美容記事を作る毎日が始まりました。念願ではあったものの、取材を重ねていくごとに、業界内での先輩美容ライターの深い知識や人脈の広さ、華やかさに圧倒され「どうがんばっても先輩たちの壁は越えられないな」と思っていました。

仕事自体はとても楽しく、少しずつ自信がついてきた頃、いったん産休で現場を離れました。戻ってきたけれど、状況はやっぱり今まで通りで大きな壁がある。そのときライターとして、フリーランスとしての自分のポジションがぼんやり見えてきたんです。このままやっていても自分はほとんどステップアップできないだろうなと改めて思いました。

――その葛藤、わかります。

私は、読むのも書くのも好き。ライターになるということは、いつか本を出せたらいいなと純粋に思っていたんです。だけど当初は「本なんか出せないだろう」「私なんていつまでたっても下っ端で、この中で勝負してたら無理だわ」と。

実は産休中に、いろいろともがいてチャレンジしていました。メイクアップスクールに通ってディプロマを取得したり、アロマの勉強もしたり。でもどんなに知識を得ても絶対無理だと思っちゃったんです。

―― SNSの時代でもないですし、道を切り開く方法が見えなかったですよね。

このままでは厳しいと悟ってから、自分の1番得意なところを活かすしかないと思い至りました。美容というジャンルだけでも既にセグメントされているのですが、その中でもさらに自分をセグメントしていけばプロフェッショナルになれるかもしれない、と。

 

白髪対策のはずなのに、健康被害が起きるという社会の矛盾…。
スキンケア・頭皮・髪の知識を活かしてなくしていきたい。

――伊熊さんにとってはそれが髪だったんですね。

ヘアというジャンルは美容でありながら雑誌の中でもちょっと微妙なポジションなんです。女性ファッション誌の台割構成って、巻頭はファッションで、中盤から後ろが美容情報になり、最後に読み物系という流れ。今でもだいたい同じ作りです。

編集部もファッション、美容、読み物と担当編集が分けられ、ヘアのページはファッションか美容のどちらかの人が兼務でやる、みたいな感じ。当時はヘアといってもヘアカタログが中心で、サロンやスタジオでいくつかヘアスタイルを撮ってきて載せるという企画です。そうなるとファッションの人でも美容の人でもできるから、「プロ」のポジションが不在の状態。

――業界事情、興味深い!ポジショニングマップですね。

同時に自分の髪の問題も気になっていました。実は、産休を取っている間に白髪がすごく多くなったんですよ。まだ30代半ばなのに。妊娠中にヘアカラーはしない方がいいというのは聞いていたし、薬剤を経皮から吸収するかもしれない…と染めずにいたら、産後脱毛もあいまって結構見た目がひどい(笑)。でも、出産のお祝いで人に会う機会は多いから、やっぱりカラーしたいな、と。そうして白髪染めを始めると毎回「追われている感覚」を抱くようになり、意味がわからなくなってきちゃったんです。白髪染めって、マイナスをゼロに戻してるだけ?しかも頭皮にも負担をかけながらやるべきことなの?と。

――確かに…。

サロンを取材してるうちに、美容師さんたちもお客様の髪と頭皮にプラスになっていないことに対し、モヤモヤを抱えているとわかってきました。

『クレアトゥールウチノ』というヘアケアの先駆的なサロンがありまして。内野社長と話したときに「カラーもパーマもその性質上、どうしても髪を傷めてしまうもので、僕たちは髪を傷めることやっているから、それがどうしてもやるせない。普通にやっていたら1ヶ月後に来たお客様の髪はまたボロボロになってしまう。それを直しても、また1ヶ月後にはボロボロ。このループがすごく辛いから、うちはヘアケアにしっかり力を入れて、お客様にもセルフケアの知識を得てもらうことを旨としています」と仰っていて。「ああ、これだわ」と共感したんです。

―― 自分の行く道はこれだ!と見えたんですね。

本当にモヤモヤ、今の美容の矛盾というのをすごく感じたんですよね。一方で私たちもそれが当たり前だと思っている。長い目で見るとカラーは髪を傷めているんだけど、意外とそれに気づいていない。なぜなら、サロンから出てくるときには美容師さんと製剤の技術でキラキラになっていますから。

―― わかります、美しくなって帰ってくるから、そこで傷んでいるとは思わないですよね。

だけど1週間も経つと輝きが失われてしまうじゃないですか。ヘアカラーが頭皮と髪にとってストレスフルなことだとなかなか認識されないんですよ。美容師さんもそこは仕方がないとあきらめている感じ。

そういうジレンマを抱いているときに、あるモデルさんが、私に相談してきたことがありました。「私ね、もう頭皮が痒くて染められない。どうしたらいいの?」と。聞けばそのモデルさんは、撮影のために2週間に1回は根元を染めている状態。そのせいか頭皮がヘアカラーアレルギーになってしまったと聞いて「そんな矛盾ってあるのか」とショックでした。職業柄、きれいにしなくてはならない人が身だしなみを整えるつもりが、実際には健康被害に繋がってしまったということですから…。「これで本当にいいのだろうか」と思ったんですよ。

―― 白髪対策は本当に悩ましいですよね。

私自身も1ヶ月に1回のペースで染めていたけど、もたないから3週間に1回くらいの頻度に上げないといけないところまできていました。髪もだんだん細くなってくるから、40代前半ぐらいには「私の髪と頭皮は後どのくらい耐えられるのかな」と不安になって。

そうして私が毛髪診断士の資格を取得した2017年頃に「頭皮ケア」という言葉が徐々に浸透しつつありました。頭皮は普通に「肌」なんです。だから今まで蓄積してきたスキンケアと頭皮と髪の知識を足せば、みなさんに正しいケアの知識をお伝えできるかなと思ったんです。

髪はその人を引き立てて見せる、大事な“フレーム”。
頭皮ケアをすることで、髪の毛はポテンシャルを伸ばせる。

 

――ヘアケアの第一人者である伊熊さんから見て、女性が社会で自分を表現する上で外見やヘアはどんな役割を持つと思いますか?

私の個人的見解ですが、身だしなみは整っているほうが多くの人に受け入れられやすいと思っています。髪は顔の「フレーム」、つまり「額縁」なんです。オーラと言ってもいいかもしれませんが、その人本来の魅力を引き立て、雰囲気を作るものだと思うんです。

―― なるほど。

メディアやSNSでの現総理はフレームを整えることも上手ですよね。絵も、どのフレームに入れるかがすごく重要じゃないですか。木製か、金属か、モダンなのかヴィンテージなのか…フレーム次第で絵の雰囲気も見え方も、そして価値もいかようにも変わる。フレームがきれいに整っていると、その人の凛とした姿勢とか、余裕とか品の良さとか印象が変わるんですよね。あと香りもやっぱり大事かな。その人を包むオーラの1つです。

日本人は香りを纏う人がそれほど多くないのですが、シャンプーの香りがほのかに香ることは好きな人が多いですよね。すると特別な香りを身につけなくても、髪に手をかけている女性、という印象になるし、清潔感が生まれます。

―― 自分をどうプレゼンするかというコミュニケーション戦略の一部として取り入れると、キャリアもより発展させていく効果があるかもしれないですね。

そうですね。初対面の人があなたのどこを見るかというと、全体を捉えているんですよね。目が可愛いとか、鼻が口がとかディテールの問題じゃない。フレームである髪をきれいにすることで、内側の絵であるその人の本質まで美しく、品のいいものに見えてきます。

―― 髪はきれいに保ちたいですけど、常にとなると、なかなか難しそう…。

人の体は生命維持のために必要な臓器から栄養がいくし、血流もだんだん悪くなり、代謝も低下していきます。つまり、優先順位としては下位の髪の毛から先に衰えていくことは間違いない。だけど、頭皮をケアして血流が巡り、栄養が行き渡るようにしてあげることによって、髪の毛のポテンシャルを長く保つことができます。

美容家電の進化も助けてくれますよ。ドライヤーなんて、ちょっと前までは熱で乾かすものばかりだったでしょ?今どきのドライヤーはちゃんと一定の風圧を保って頭皮に届くようにできている。頭皮を乾かすって実はすごく重要なんです。頭皮にも常在菌がいて、バランスを崩すと、炎症が起こったりフケが出たり。だから頭皮ケアは、スキンケアの延長線上でやっていくことが重要です。今は若い方でも頭皮ケア、普通にはじめていますよね。

―― 若い方ですか?頭皮ケアって年齢がいってからというイメージがありましたけれども。

はい、意識の高い方はやっていますよ。とはいえ、意識や年齢に関わらず、頭皮ケアって今まであまり重視されていなかったから何をやればいいのかわからないという方も多いですよね。もし迷ったら、頭皮も肌ですからご自身が経験してきたスキンケアの延長線上で考えればいいんです。スキンケアの基本は「洗浄」「保湿」「UVケア」が三つの柱になるのですが、頭皮では、皮脂が多いという肌の特性に合わせてこれを応用すればいい。たとえば、頭皮ではあまり重きをおかれない「保湿」ですが、脂があっても水分が足りないと頭皮環境が悪くなり、いい髪が生えてこない。そこで、どうしたらべたつかずに効果を出せるかを考えた、スカルプケア美容液がたくさんあります。そういったものを取り入れたりね。

―― 今の時代は、若い頃からそんなに選択肢や情報があって、本当に羨ましい。

頭皮ケアの知識なんて昔は少なかったですものね。頭皮は皮脂が多いので、いつも潤っていると思いがちですが、加齢だけでなくヘアカラーやブリーチの刺激などによって乾燥しやすくなります。すると皮脂と水分のバランスが悪くなり、毛穴に皮脂が残留してしまったり、逆に出過ぎてしまうということもあります。年齢を重ねるとそういうトラブルが起きやすいので、ぜひ頭皮の保湿や血流をよくするマッサージなどを行ってほしいですね。

――最後に、エイジング悩みが増えてきている世代の女性に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

年齢を重ねれば重ねるほど、自分を好きになることが大切だと思っています。肌も髪もそうなんですけど、自分で自分をケアすると、自信が生まれて自分のことがどんどん好きになれるんです。

若い頃は社会との関わりも強くてあまり深く考えずに生きていけますが、年齢を重ねて社会から距離ができ、自分の体力や見た目の衰えを感じたときこそ、自分への自信が必要。それがないと、ほかの人の生活を見て孤独や羨ましさを感じてしまったりね。

セルフケアは今すぐ誰もができること。頭皮ケアが続かなかったら、1日1回寝る前に手にハンドクリームをつけてマッサージをしてみたらどうでしょう。手ならいつも目がいくので続けやすいですよね。1週間で手のシワも透明感も全然変わります。そんなふうに自分を磨くと自分に自信がついて「自分はどう生きたいか」というビジョンを考えるようになる。

―― 自分軸でちゃんと生きる。

はい。お手入れって、スキンケアでも頭皮ケアでも、習慣化してやっていると、自分の変化に敏感になりますし、自分への「好き」がどんどん蓄積されて、毎日が楽しくなります。それに周囲からモテるという副産物もありますよ(笑)。仲間が増えると人生は充実します。日々のセルフケアから、人生はもっと豊かになれると思います。

―― 自分を好きになるためのケアだと思うと、新鮮で、楽しく続けられそうです。伊熊さん、貴重なお話をありがとうございました!